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世界平和なう:そして僕は途方に暮れる

2018/01/26(金)
※食事中の方は食後最低でも一時間経過してからお読み下さい。
 
随分昔のことでどこの駅だったか忘れてしまったけど、東京郊外のJRの駅での話。夕方のラッシュアワーにはまだ早く、人影もまばらな駅の構内。
階段を下りてホームに降り立つと前方30メートルぐらいのところにケータイをいじる女子高生が立っている。黄色い線のすぐ内側ぐらいに立っている彼女はケータイの画面に釘付けで全く周りを見ていない。
 
「そろそろ電車が来るけど、まあまだ先っちゃあ、先の話だよね」
ぐらいの余裕のあるアナウンスがかかっている時だった。ぼくの目にショッキングな光景が飛び込んで来たのは。なんと、女子高生の数歩後ろにちょうど一人分のもんじゃ焼きが広がっているではないか。しかも、彼女の半径数メートルだけ全く人気がないのを見ると、ぼくより先にホームにいる乗客たちの中にはその光景が目に入っている人もいるはずなのに、「今そこにある危機」について誰も彼女に指摘する気配がない!!
 
その時、陽の傾きかけた薄暗いホームでぼくの細めた目だけが鋭く光った…はずだ。
 
(ははーん、これだな。これがいわゆる“都会の無関心”ってヤツなんだな。)
 
暴漢に襲われても「助けて!」ではなく、「火事だ!」と叫ばないと誰も家から出て来てくれないと言われる東京砂漠が、今、眼前にあるのだった。
正体見たり!これを放っておくものか。心の奥の方で綿埃に包まれていた正義感がむくむくと置きだしてくるのを感じた。実に久しぶりのことだった。思い出して来た、思い出して来た、この感じ。
ここからはスローモーションで展開しているイメージで。
 
アナウンス「そろそろ電車来るから心の準備してて。ほんとに間近になったらまた言うけど」ぐらいの緊迫感。
女子高生がケータイ見ながら一歩後ずさる。あと三歩ぐらいでアウトの位置。
ぼく、間合いを詰めながら声をかけたものかどうか思案中。距離20メートル。
アナウンス「そろそろほんとに来るよ。危ないから黄色い線の内側に下がって…」
女子高生、”下がって”に反応してほんとに一歩下がる。あと二歩でアウト。
ぼく、「危ないよ」と言うが、生来のシャイさが災いして大きい声を出せず女子高生に聞こえていない様子。距離10メートル。
電車がホームに入ってくる。ホーム先端でフラッシュ撮影した鉄っちゃんに思いっきり警笛が鳴らされる!
女子高生、音にビビってもう一歩下がる!あと一歩でアウト。
ぼく、「ストーップ!! 危ない!!」と大声で怒鳴る!
女子高生が初めて顔を上げ、真横のぼくと目を合わせてもう一歩下がる(゚∇゚ ;)エッ!?
ぼくが目を閉じて天を仰ぐのと、彼女が足元の違和感に気づいて下を向くのがほぼ同時。
顔を上げて恨めしそうにぼくを見る女子高生。
ぼく、「どうして信じてくれなかったんだ!!」
 
驚いたことに彼女は足を非もんじゃ地帯に擦り付けると、何事もなかったかのように電車に跳び乗って去っていった。よくすぐ乗れるもんだ…臭くない?ま、いっか。ね。
 
♪君の選んだことだから きっと大丈夫さ
 
 君が心に決めたことだから♪
 
その電車に乗るはずだったぼくは一連の展開に当てられて乗りそびれてしまった。誰もいないホームに一人取り残されて、目の前にはもんじゃ…
 
♪そして、ぼくは途方にくれる♪
  

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