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本:「ぼくの村は壁で囲まれた」 高橋真樹 著 

2018/03/21(水)

「ぼくの村は壁で囲まれた」〜パレスチナで生きる子どもたち〜 高橋真樹 著
 
帯に国際政治学者・放送大学教授の高橋和夫氏の評がある。「文章の中にパレスチナ人の声が響いている。入門書だが内容には妥協がない。しかも、わかりやすい。やっと本物の入門書が出た。」
 
その評の通り、複雑極まりないパレスチナ問題を誰にでもわかるようにナビゲートしてくれる素晴らしい入門書だ。単なる解説にとどまらず、「ユダヤ人とは何か?」とか「なぜ『ホロコースト犠牲者の国』がパレスチナ人を迫害するのか?」といったよくある疑問や誤解への回答として書かれたコラムも読み応えがある。また、パレスチナの子どもたちの口から語られるエピソードや豊富な写真を通じて、占領下の生活の息苦しさや切なさが身に迫ってくる。とかく“遠くの中東で起こっている民族・宗教間の紛争”という他人事として語られがちなパレスチナ問題がぐっと身近に感じられる。
 
この本のどこが“本物の”入門書なのかと言えば、それはパレスチナ問題の本質にちゃんと踏み込んで書かれているという点に尽きる。その本質とは、1967年以来、パレスチナで毎日起こっている執拗な人権侵害や殺傷事件が国際法に違反した「占領※」であるということだ。にもかかわらず、マスコミの報道でこの基本が語られることは驚くほど少なく、“民族の対立”とか“聖地を巡る宗教間の争い”などと決まり文句をちりばめながら占領の実態を一切報道せずに世論をミスリードし続けている。現代のホロコーストとも呼ばれるパレスチナ問題に抗議の声や関心が少ない理由の一つとしては、間違いなくマスメディアの歪曲報道の問題がある。だからこそ、ネットメディアや書籍や自主制作映画で草の根的に真相を伝えていく意味がある。
  
パレスチナや国際政治に興味のない人にも、いやそういう人にこそ是非手に取ってみてほしい一冊だ。これを読めば、半世紀以上もの間、この世界が何を放置してきたのか、何を隠して来たのかがわかるし、それを知る事でこれまでとは違う世界観が開けてくるのではないだろうか。もしかしたらそれは、読者のこれまでの先入観や固定観念を壊し、その後の人生を一変させるきっかけになるかもしれない。
 
※占領…国家や武装勢力などが他の国や人々に属していた土地を軍事力によって支配下に置くこと。

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