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世界平和なう:怒れる若者たちの「Bull Shit!」

2018/04/07(土)
3月24日、銃規制強化や学校の安全対策強化を訴える大規模デモ(March For Our Lives)がワシントンを中心に全米各地であり、そのプラカードの一つには「(学校から)生きて帰りたい」というものもあった。銃乱射で17人の犠牲者が出た南部フロリダ州パークランドの高校生徒らの呼びかけによるものだったが、全米にとどまらず世界各地で行なわれたデモや集会は事件以来800を超えるという。
  
↓関連動画を含めてとてもよくまとまっていて面白い。
町山智浩 アメリカ高校生銃規制デモ「March For Our Lives」を語る
 
銃乱射事件が起きるたびにこのような動きはある。それでも期限つきのなんちゃって規制法案ができるぐらいで、これまでほとんど抜本的な規制強化には至らなかった。なぜか?会員数500万人のNRA(全米ライフル協会)というロビー団体(政界工作人、全米で3万人)に力が有りすぎて選挙に当選するために政治家が抱き込まれているからだ。
 
なにしろ、その年間予算は総計400億円。アメリカでは企業や団体による政治献金に上限がないのでその潤沢な資金が政治家たちにジャブジャブと注がれる。NRAが先の選挙でトランプ当選のために使った金額だけで32億円以上というからすごい。選挙対策は、支持候補のキャンペーンだけでなく対立候補へのネガキャンや刺客候補擁立まで含むので当選したい候補者が敵に回したくないロビー団体という意味ではナンバーワンだろう。事件の犠牲者遺族らが規制強化を陳情した際にトランプが「教師たちに銃を持たせる」とNRAにとっては最高のアピールをしたのもまるで漫画だ。
アメリカにおける銃犯罪の氾濫を示す例としては、アメリカの学校教師が銃規制専用のシミュレーションゲーム(銃を持って迫ってくる犯人から生徒を率いて逃げる内容)で乱射事件があった場合の仮想トレーニングをしている動画もあった。幼稚園や小学校では子どもたちが真っ先に習うのは1+1やABCではなくて、銃乱射事件を想定した避難訓練だという。小規模なものを含めると、無差別発砲事件は毎日一件、学校では週に一度というから凄まじい。
  
また、そのような状況にも関わらず、州によってはショッピングモールや遊園地など子どもがたくさんいるところへもオープンキャリー(ライフルをむき出しで携帯すること)が許されているとか、杜撰なIDチェック、パステルカラーのかわいい子ども向けライフルとして“マイ・ファースト・ライフル”なる商品まであるのは、熱心なロビー活動の賜物だろう。
  
参照
町山智浩 ラスベガス銃乱射事件と銃規制問題を語る
  
つまり、政治家が「国民の安全を守る」という当然の責務を保身のために放棄しているのに対して若者たちが「くそったれ!(Bull Shit!/牛の糞)」と立ち上がったわけだ。いつの時代もエゴまみれの淀んだ世間に「ノー!」を突きつけるのは、そんなBS社会に適応する前の“怒れる若者たち”だ。
その抗議運動をスピルバーグやコンバースといった有力者、大企業も資金提供含めて後押しし、実際に州レベルでは規制強化される動きも出ているという。また、これまでズブズブだった大企業がNRAと手を切るというアピールを行なったり、NRAとズブズブの共和党に対してまだマシな民主党優位の州がNRAに反旗を翻して苦境にある企業を誘致したりと政治と企業と市民の関係が新たな局面を迎えているというから面白い。大学入試のための内申にデモの参加が響くことが懸念されたが、有名大学がいち早く「当然の権利だからデモ参加で不利益を与えることはない(安心して参加しなさい)」と明言したのもいいニュースだった。遅かれ早かれ人間らしく生きていくためには、こうした変化が起きるのは必然だったろう。
 
モーリー・ロバートソン アメリカ銃規制問題 NRAと企業の対立を語る
 
銃の問題を考えていて思ったのは、自分の安全が脅かされる時は人を殺すことを容認してしまう正当防衛についてだ。殺される前に殺す、これは戦場の論理であり、自身の生存を最優先とする時の論理だ。企業や政治家がNRAに逆らえないのも同じ理由で社会的な存続のためだ。それはある意味で自然なことだ。みんな生活がかかっている。誰だってこの熾烈な競争社会の中で貧乏くじは引きたくない。どんな巨大な企業や政党を動かしているのも、一人一人の人間だから。けれど、その寄らば大樹の陰的行動原理は、実は存続のために楽なだけで、必ずしも一人の人間が生存するための必須条件ではないし、たとえ長いものに巻かれずに信念を通して目先の不利益を被っても、それこそ殺されるわけではないからチョイスとしてはあり得る(たまに殺されてそうだけど)。
それに、個人的利益重視の行動が逆に自分や自分の子どもたちを絶えず銃撃のリスクに晒し続けることになるのは皮肉なことだ。この強烈な矛盾の中で若者を立ち上がらせたのは何かといえば、それは「Shame on you/恥を知れ!」というメッセージに象徴されているように「人が生きる上で保身以上のものはないのか!」という一人の人間としての叫びだ。まだ社会の中で特定の利益のために動く集団の中に属していない若者たちには、自分や友達のかけがえのない命を“大人の事情”で脅かされ続けるBS社会に怒るだけの純粋さが残っているのかもしれない。
 
そのメッセージに呼応して一見不動に見えた岩盤に地殻変動が起きている。大人の事情で動いてきた元若者たちの心が揺さぶられたのだ。大人たちの心の奥にも若者たちの魂の叫びに共鳴するものが残っている。同じものを持っているから共鳴するのであって、こうした変革が起こるのは、誰の心の中にも死ぬまで消えない純粋なるものがある証拠なのではないだろうか。それは個人的な損得を超えて自分の命を全体の幸福のために使おうとする崇高な意思のことだ。どんなに絶望的な状況の中にも希望はあると改めて感じた。
 
面白いです!↓
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