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アースなあの人:馬頭琴奏者 岡林立哉さん

2018/08/20(月)

岡林さんはモンゴル伝統のホーミー唱法と民族楽器・馬頭琴の奏者。アースキャラバン東京2018では、16日に中世ヨーロッパの楽器ハンマーダルシマーの小松崎健さん、アイルランドの太鼓バウロンのトシバウロンさんとのトリオ、カルマンというバンドで参加して頂くことになっている。
初めて岡林さんのライブを見た時、その素朴で哀愁漂う音色とモンゴル語りから大草原の風を感じた。モンゴルでは見渡す限りの草原の上に満天の星空が見えるそうな。
 
演奏の合間に岡林さんが語るモンゴル話の中でとても印象的だった話がある。

モンゴルで遊牧民のゲル(移動式住居)に泊まっている時のこと。
早朝に目が覚めると、お世話になっている遊牧民の一人が岡林さん専用の馬を連れて来てくれるという。
「よろしくお願いします」と待ってみたものの、1時間たっても2時間たっても戻って来ない。
昼頃になってようやく10頭ぐらい連れて戻って来る。この中から岡林さんの馬を捕まえてくれるという。 柳の枝でできた竿の先端に、輪状の革紐を結びつけた長い棒「ウールガ」を馬の首に引っ掛けて捕まえようとするのだが、ふだん放牧されている馬たちはなかなか人の言う通りに動いてくれない。
すると、今度は何人かで協力して同じようにやってみる。 
それでも駄目だと、投げ縄で。 
それでも駄目だと、何人かで柵で囲まれたところに追い込んでようやく捕まえることができた。
  
これ、もし現代の日本人だったら同じ状況で、
「どうして最初から一番早く確実な方法で捕まえないのか?」
って思う人が多いんじゃないかな。
 
彼らは馬を捕まえるのにどうすれば一番早く確実かなんてことは知っている。でもあえてそんな“コスパの良い方法”を最初から採用することはない。それはあくまでもうまくいかない場合の苦渋の決断なのだ。それよりも彼らなりのこだわり、美学が優先される。それは経済合理性みたいなものとは対極のところに位置している。
 
つまり、早いか遅いとか、楽かしんどいか、とかそういうことが基準ではなくて、格好いいか、伝統や文化に即しているか、気持ちがいいか、などという基準によるのだろう。時には妥協だってする。でもいつだって最初から理想の姿を放棄することはない。
話は変わるけど、岡林さんは地元、高知県の仁淀川で国際水切り選手権の運営にも携わっている。水切りって、そうそう夕方海岸に行くとなんとなくやってしまうアレです。平たい石を投げて水面を弾ませるやつ。
20回ぐらいは弾ませないと予選突破は難しいというマニアックなこの大会。マイストーン持ち込みもオーケーだけど、使った石は当然川に沈んでしまうので、とっておきの石をいつ使うかが問題で、一番いい石を残したまま予選敗退なんてこともあるとか。また風向きなどの自然条件に左右されやすく、練習量に比例して結果が出せるとも限らないし、スキルの積み上げをしにくい競技なのだという。それでもみんなしっかり練習をして遠くからもやってくる。自分の名誉?と遊びのために。
 
なにか、モンゴルの遊牧民のプライドと水切り選手権とに少し似たものを感じた。それは今の日本人の生き方に一番足りないもののような気がする。寄らば大樹の陰で保身から長いものや世間の価値観に巻かれていくのではなく、自分の信念やこだわりに従って行動するということ。
さて自民党総裁選はどうなることやら…

※モンゴルの写真は岡林さん撮影。
  
◎岡林さんの馬頭琴とホーミー
◎岡林さんHP
◎仁淀川国際水切り大会(8/26実施 ※当日エントリーもOK)
◎岡林さんと行くモンゴルツアー(2018は終了)
◎カルマンHP
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◎岡林立哉(おかばやし・たつや)さんプロフィール
名古屋市出身、高知県在住。日本で数少ないホーミー、馬頭琴の奏者。
旅先のモンゴルでホーミーの音色に魅せられる。以後、繰り返しモンゴルを訪れ、モンゴル奥地を旅し遊牧民の文化、歌を学ぶ。約2年半に及ぶヨーロッパ、南北米での演奏しながらの放浪生活を経て、帰国後は遊牧民から学んだ多くの歌、モンゴルの話とともに送る贅沢な「生音コンサート」を毎年100ステージ近く行っている。近年はカルマン、風の音楽家などのユニットや芝居とのコラボなどジャンルを超えた活動にも力を入れている。ホーミーの宇宙的な響き、昔ながらの皮張り馬頭琴の素朴な音色は聴く人に感動を与える。
カウスティネン民族音楽祭(フィンランド)、ヴィルニュス国際民族音楽祭(リトアニア)他各国の音楽祭出演。NHKラジオ「ラジオ深夜便」の「ないとエッセー」に4夜連続出演など。

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